Nagi MOCA



「----この美術館では従来の美術品と展示空間の関係が逆転している。
これまで、美術館には作品を展示するギャラリーがあり、他の場所から選ばれた絵画や彫刻がそこに展示され、一定期間を経て持ち去られるという展覧会の型を繰り返すことになっていた。ところがここではアーティストの作品そのものとして構想された空間が最初にあり、建物はそれを覆うシェルターにすぎない。といっても輪郭をかたちづくる建物と作品とは相関関係で幾度も往復する作業がなされた。結果としてこの内部は、特定の作品のための、固有の空間となり、展示替えするニュートラルなギャラリーではない。これを比喩的に説明するには、寺院の金堂を思い浮かべればいい。そこでは仏像がまず創られており、建物はそれを覆う鞘堂として建設された。美術館という枠が拡張して、美術品と建物が一体化している。私はそういう状態をつくりだすことが、すなわち《建築》であると考えているが、それを美術館という広義の制度の展開過程に位置づけることも可能だろう。---」磯崎 新 Nagi MOCA

「私の生活も大きく変わった。
九一年に還暦を迎えたのを機に、「名誉」「地位」「財産」を求めまいと誓った。晩年にさしかかった人間はこの三つに惑わされ、創造的であったアーティストも守勢にまわりがちになる例をいやという程みてきた。そこで自戒を込め、賞をいただいたり、名誉職のたぐいを引き受けたりするのを一切お断りすることにした。
それが真に「自由」になれる只ひとつの生き方だと思った。」
磯崎 新 
2009年5月31日 日本経済新聞  『私の履歴書』

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